OSA日記

旅と食と健康とメンタルと

四国遍路 4_1

4月29日

サラリーマンゆえ、1年でゴールデンウイークくらいしかまともな休みが取れそうもないので、年が明けるとなんとなく遍路地図などを眺めだし、3月に入ると真剣にコースを考えるようになり、1ヶ月前には宿や切符の手配を始めるようになる。

今回から行き先が徳島から高知に変わる。名古屋から直行の夜行バスもあるが、今回の出発地である奈半利に行くための乗り継ぎが悪く、高知で2時間弱も待たされることになる。時間には縛られない遍路旅だが、初日から難所の神峯(こうのみね)寺を擁しているため早く到着するに越したことはない。

調べてみると大阪からも夜行バスがあり、そのダイヤだとうまくいくので、大荷物を抱えて乗り継ぎするのを我慢することにして、大阪からのバスを予約する。

仕事が終わってから夜行なので、大阪までは新幹線を利用するしかない。それなりに費用がかかるかと思ったが、更に調べてみると日付指定でひかりの自由席に限る安い切符を発見し、トータルでほとんど変わらなくなった。何事も調べてみるものだ。

某年4月28日、帰宅後風呂に入り荷物をまとめると早々に家を出発。地下鉄の積み残しが出るくらいの帰宅ラッシュも菅笠と金剛杖がかさばる大荷物を持ったまま耐え、名古屋駅から予定していたひかりに乗る。GW直前なので混み具合を心配していたが自由席はガラガラで、連休にはまだ早いのかもしれない。

大阪では阪急三番街のバスターミナルから高知行きの夜行バス「よさこい号」が出発する。バスはさすがにけっこう混んでおり、イヤホンから音が漏れている若者や、スルメの匂いをぷんぷんさせているおっさんなどに悩まされながら、早朝5:30の高知着まであまり熟睡できなかった。

高知駅で準備をし、予定していた列車に乗ろうとするが、電光掲示板にその表示がない。高知から奈半利までの直通が無いので、接続駅の後免まで行く列車だが、よく見ると休日運休となっている。後免から先の列車はあるのになんと不親切な、これでは名古屋発のバスでよかったではないかと憤っていたが、さらに調べると7:00発の特急が接続している。

やれやれと思いながら特急しまんと2号に乗るが、たった7分の乗車で310円の特急料金が必要で、そのわずか3分後に出る普通列車では間に合わないダイヤなので、何か作為的なものを感じる。

乗車時間は短いので車内検札も来ず、そのまま乗り換えれば逃げ切れるかと不埒な考えもよぎったが、後免駅では跨線橋の手前で駅員が待ち構えていて、しっかり特急料金を徴収された。

別ホームで待っていた1両の奈半利行きに乗り換え、寝不足もあってか終点の奈半利までほとんど意識がなかった。

見覚えのある前回終了地の奈半利駅に降り立ち、本格的に準備する。白衣を羽織って菅笠かぶり、杖を持った遍路姿となって歩き出したのが8:40。

今日はとてもいい天気で、見覚えのある遍路姿をした自分の影が先行している。奈半利から田野の町を抜けゆっくり歩き、土佐鶴酒造の横を通過したりして、唐浜の交差点でいったん休憩。ここから土佐最大難所の神峯寺へ向かうのだが、コースは大きく打ち戻ってくるので、再びこの交差点にやってくるわけだ。

先行する影

ここからの道は「真っ縦」と呼ばれる急勾配で、「幽経九折にして黒き髪も黄色になりぬ」とまでいわれたきつさらしい。前回もこれで失敗したのだが、初日の寝不足の身体でいきなりこの難所に耐えられるかが今回のポイントだと思うので、まずは車道をゆっくりと上がっていく。

途中でご夫婦のお遍路に追いつき、和歌山から来たとのことでいろいろ話しながら歩く。自分同様区切り打ちとのことだが、奥さんは坂道が苦手なようで、次第に遅れていくため自然と先行することになった。階段ではなく坂道なので負担が膝よりもふくらはぎにくる。前の鶴林寺のときもそれで傷めたので注意して歩いていると、やがて急坂の遍路道が待ち構えていた。

神峯寺へのへんろ道

石でごつごつした急な道を、息を切らせながら上っていく。つづら折れの車道を串刺しにするように直登するので何度も車道に出る。最後の車道に出てからのつづら折れでは先が見えず特にきつく感じた。
それにしても「九折」と「真っ縦」は意味合いが違うと思うのだが、今回は明らかに「真っ縦」であった。

11時過ぎにとうとう27番神峯寺の山門に到着。さすがにきつかったがへばるほどではなく、少し安心し、山門で一礼して寺に入っていく。

本堂と大師堂はさらに石段をかなり登ったところにあるが、ザックを下に置いて身軽になり、途中の美しい庭園を眺めながら石段を登っていく。かなり上の方にある本堂と大師堂で久々の手順で参拝する。

神峯寺の庭園

下に降りて納経所でこれまた久々の納経をしていると、「歩きですか?」と聞かれ、そうだというとお接待にと袋に入ったお菓子をいただいた。苦労した分うれしさはひとしおだ。ベンチに腰掛けて靴を脱ぎ、鶯の鳴き声を聞きながらのんびりとおにぎりなどをほおばり、名水の「神峯の水」を飲み、久々の遍路旅を満喫する。

ゆっくり休憩して12時神峯寺を出発、元の道を戻っていく。今日も天気はよく、若干霞んでいるが高台から海が望め、展望はとても良い。歩いているとわずかな距離でも戻るのはいやなものだが、今回は4キロ近く打ち戻らなければならない。ただ、一度通った道なのでなんとなく勝手がわかり、程なく車道に出る。

神峯寺では人が少なくのんびりできたが、この時間になって大量のタクシーが遍路姿の人を満載して登っていくのにすれ違う。また団体に悩まされるところで危ないところだった。

南向きに唐浜まで戻ると今度は西に向かって新しい道を歩き出す。先程おにぎりを食べたのにもう腹が減ってきたが、相変わらず店らしきものがない。だいぶ先に道の駅があるようなのでそこまでないかと思ったが、突然食堂らしきものを発見したので寄ってみる。

うかがってみると残念ながら店は休業中で、がっかりしていると同じ敷地に開店していた露店のおじさんがやってきて、そばめしならあるという。閉まっている店の前でよほど落ち込んだように見えたのだろうか。ともかく、せっかくなのでいただくこととし、ついでにすり身のフライなどもあったので頼むと「お接待に」といってまけてくれた上、売り物の饅頭までいただいた。

やはり四国はいい、と思いながらベンチを借りてそばめしを食べると、再び国道を歩いていく。やがて到着した道の駅大山で休憩すると、数人の歩き遍路の人たちがいてしばらく歓談。車で来た人も話に交じり「一度歩いてみたいけど・・・」などと言っている。

道の駅を出ると、国道から逸れて海沿いの防波堤道を歩く。前回の奈半利手前の風景と同じで、遥か遠くに今日の宿泊地安芸の町並みが見渡せる。波の音を聞きながら晴れ渡った海沿いの道を歩くのはまことに気持ちが良く、疲れを感じない。太陽に反射してきらきら光る海面を見ていると、いつまででも歩いて行けそうなくらいだ。

遠くに安芸の町

とはいえ、そこから5キロも歩くとさすがに疲れてきた。防波堤道も終わり鉄道を越えて国道に戻る。川を二つ渡ると安芸の市街だが、二つ目の安芸川の橋の上で自転車のおじさんに話しかけられ、どこから来ただのどこまで行くのといろいろ聞かれる。最後に「学生さん?」と言われたのにはさすがに驚いたが、菅笠をかぶっていると若く見られると何かに書いてあったような気がする。

国道から旧道に入っていくと、まもなく本日の宿のK旅館が現れた。いつものように入り口で大声で呼ぶと、やがて人がよさそうなおばさんが出てきて案内してくれる。今日の宿泊客は私一人だそうで、風呂も食事も一人。

おばさんは親切で食事もおいしく、相変わらず遍路宿は外れがない。荷物軽量化のため着替えは一組しかないので洗濯もしなければならないが、洗濯はおろか乾燥やたたむのもおばさんがやってくれた。

初日は気持ちがうわずっているのかこの時点ではあまり疲れを感じなかったが、21:00頃に布団に入り、電気を切ったとたんストン、という感じで眠ってしまった。

本日の歩行距離は約22キロ、36,500歩だった。初日から難所だったが、膝を含め脚へのダメージは感じず、いい出だしではある。