OSA日記

旅と食と健康とメンタルと

四国遍路 1_1

某年10月5日

何はともあれ、当日がやってきた。

木曜日に帰宅後、風呂に入ってから予め準備していた荷物を担いで駅に向かう。帰宅ラッシュに逆らいながら、大荷物を抱えて地下鉄に乗り名古屋駅へ(当時は名古屋に住んでいた)。

名古屋バスターミナルからは深夜23時発のJR夜行バスで一路徳島行きとなる。夜行バスに乗るのはかなり久しぶりで、座席はやはり窮屈だったが、それでもいくばくかは眠ることができた。 

夜も明けきらぬ午前5時にJR徳島駅到着。窮屈な姿勢で寝ていたせいか体が固まっている。
若干呆然としながら駅のコンコースで簡単に準備をし、予定していた高徳線の列車に乗る。まだ暗い中列車は徳島を出発し、吉野川を長大な鉄橋で越え、20分程度で板東駅に到着。板東駅は1番霊場の最寄り駅なのだが、それらしい案内はほとんどなくそっけないことこの上ない。

用意していた地図に従って歩き出し、程なく1番霊山寺に到着。歩くことについては十分準備してきたが、遍路に関するものは何も持っていない。まずはここの売店で用品を揃えなければならない。

店はまだ閉まっていたが、しばらく待つと開店したので入店し、分からないながら様々並んでいるものを物色。そこで白衣・菅笠・金剛杖・輪袈裟からはじまり、経典・納経帳から蝋燭・線香まで一式を求める。全部揃えると結構値が張ってしまうが、なにせ勝手が分からないので仕方がない。 

それでも店を出てからそれらを身に着けると、とりあえず格好だけでも遍路姿となる。なんとなく気を引き締めて山門前で一礼し、寺に入る。 

一番霊山寺

参拝の手順は、山門前で一礼⇒手と口を清め⇒鐘をつく⇒本堂で蝋燭と線香をともし納札を納め⇒般若心経や真言を唱える⇒大師堂でも同じ手順⇒納経⇒一礼して出る、というのが一般的。初めて唱える般若心経や真言は我ながらたどたどしいもので気恥ずかしいが、本堂で夢中で手順をすませ、次の大師堂でも同じことを繰り返す。

その後納経所へ向かうが、いきなり靴を脱いで上がらないといけないうえ、ここの売店で購入した納経帳にはすでに1番の納経は記入されていた。気合を入れていたので肩透かしを食らったような気がしたが、よく見れば輪袈裟や杖のカバー等にはいちいち「一番霊山寺」などと書かれていて、なにか宣伝のようだ。札所はここだけではないのに何か商売気を感じてしまい少々白け気味。

とりあえずそれはそれとして、ここから本格的に歩き遍路を始める。ここ徳島は阿波の国で、遍路では「発心(ほっしん)の道場」という、言わば入門編となっている。遍路は札所(寺)を打つ(参る)ことも大切だが、その道中がもっと大事だ。といっても1番からしばらくは慣れる意味でもあるのか、札所間の距離は1~6キロくらいの短さ。初日は7番まで回る予定にしている。

2番極楽寺へは町中を通ってわずかに1キロ程度。早々に到着し赤い山門をくぐって中に入る。先程の順序を忠実に守り本堂と大師堂を参るが、読経はまだまだ気恥ずかしさが抜けない。その後納経所へ行くのだが、そこで輪袈裟が逆になっていると指摘される。寺の人も2番なので初心者には慣れているのだろう。ここには石の上に描かれた大きな足型があり、仏足石というらしい。

3番までは少し距離が長くなり約3キロ。道はほとんど舗装路だが、たまに「遍路道」と呼ばれる昔ながらの道もある。遍路道に入ると車も来なくてほっとするし、とても気持ちの良い土の道が多い。花のいい香りがするし、蝶も飛んでいる。すれ違う子供たちが元気よく挨拶してくれる。ふと道にうつる自分の影がちゃんと遍路の姿なので面白い。鈴を鳴らして杖を突きながら歩くのも恥ずかしくなくなってきた。

遍路の影

やがて3番金泉寺に到着。ここも2番同様に山門が赤いが、赤い欄干の短い橋があったりして、少しずつ余裕がでてきたのか、どの寺も特徴があることに気づく。相変わらずよく分からないままに経をあげたり納経したりするのだが、ここでは別の遍路の方にロウソクを別の蝋燭の火から点けてはダメだと指摘される。他人の火で蝋燭をつけるとその人の業を背負うことになるのだそうだ。

次の4番まではもう少し距離があり、途中にコンビニがあったので、先達の教えに従いここでライターを購入する。高速の下から別れた道は気持ちの良い遍路道もあり、緩やかなアップダウンを軽快に歩いていくと、途中に愛染院というのがある。遍路中は88ヶ所の札所だけではなく、番外や史跡・ゆかりの地など多数あるようで、遠回りにならない限り寄っていきたいと思う。愛染院には犬と猫が気持ちよさそうに昼寝していた。

遍路道

やがて到着した4番大日寺は少々質素で静かな佇まい。どちらかといえばこのような雰囲気が好みではある。ここは少し山寄りにあるが、急に空が曇ってきた。 
歩きなので天気が気になるが、天気予報によると前半は晴天のはず。別に観光ではないので雨もまたいい経験だが、初日だし理由もあってせめて3日目までは何とか保って欲しい。次の札所に着く頃にはまた晴れてきたのでほっとする。 

5番地蔵寺は4番とは少し違う雰囲気で、なんとなく豪華な感じで境内も広い。納経を済ませたあとベンチに腰掛けて、コンビニで購入したおにぎりを食べる。イチョウの木の下で臭いのする実があちこちに落ちていて、時々上からも落ちてくるので油断ならない。靴下まで脱いで足を乾かしていたが、一度至近に落ちて飛沫を足に浴びてしまい、慌てて拭ったりする。

一息入れて出発するが、まもなくうどん屋を発見。先程おにぎりを食べたところだがせっかくなので昼食をとることにする。この時は何気なく昼食をとったが、後に普通に昼食を取れることが贅沢なことだということを思い知る。四国ならではの美味いうどんに満足して店を後にする。

連休前後のいい季節だからか、けっこう歩き遍路がいる。その中でも70歳くらいの老夫婦遍路と抜きつ抜かれつするうちに声を掛け合うようになった。のちに何人か顔見知りが出来るが、遍路というのは一人黙々と歩くことになると思っていたので、少々意外な展開だった。

6番安楽寺までは5.3キロと、こちらも少し距離がある。不慣れな上に寝不足も重なってか、だんだん疲れが顔を出し、一度道を間違えて地元の方に教えてもらったりする。

安楽寺には14:00に到着。ここの山門は下が白壁で他と作りが少し違う。龍宮門形式というらしく、上が鐘楼になっている。納経もだいぶ慣れてきて、般若心経も徐々に恥ずかしくなく唱えられるようになってきた。 

今日は7番十楽寺の宿坊に宿をとっている。6番から7番までわずか1キロ。結構早い時間に着いてしまいそうだとゆっくりと歩いていると、前方にさらにゆっくり歩く遍路がいる。初老の女性のようで追い越しぎわに声を掛けてみると、同じく十楽寺の宿坊で泊まるとのことなので、そのまま話しながら同行する。

このAさんは広島から来られた方で、私同様今日から遍路を始めたとのこと。この方も先ほどの老夫婦(B夫妻)と仲がよくなったそうで、そのウワサをしながら6番と同じく龍宮門形式の山門をくぐって十楽寺に入る。果たしてB夫妻が休憩所におられたので、境内の東屋でしばらく歓談。実は7回も歩きでまわられているベテランでいろいろな情報を聞く。 

少し先に泊まると言うB夫妻を見送ってから納経を済ませ、15:00という早い時間だがAさんと共に宿坊に入る。宿坊とは言っても新築で、部屋はオートロックにウォシュレット、液晶テレビ付きでビジネスホテル顔負けだ。 

シャワーで汗を流し、洗濯をした後しばらくベッドでうたた寝をする。目覚めると夕方で窓から見える夕焼けがとても綺麗だった。和風でおいしい食事を済ませたあと、部屋に戻って明日からの準備を整えたり道順の確認をしたりする。宿で持つこういう時間は好きだが、明日も早いことだしと9時頃に就寝。初めての遍路で興奮していたのかしばらく寝付けなかったが、いつの間にかぐっすり寝入っていた。 

本日の総歩行距離は17.5キロ。初日にしては上出来だったかもしれない。