OSA日記

旅と食と健康とメンタルと

四国遍路 6_6

5月4日

6日目。

5時には自然と目が覚め、今朝の朝食は何時だろうと考える。昨日の夕食は部屋食だったが、食べ終わった後の弁当箱は隣の部屋に置いておいてください、と言われたので、下げに来たときに朝食の時間を聞こうとしたが、とうとう下げに来ることなく、朝食の時間を聞きそびれてしまった。結局6時半までぼうっと過ごすことになってしまった。

朝食は1階の入り口にあるテーブルで食す。引き戸が開けられ外から丸見えだが、この宿においてはそんなこと気にもならない。宿泊客は4名(うち夫婦一組)だった。準備をして7時には出発。女将さんはこれからの行程を懇切丁寧に教えてくれた。

今日は最終日で44番が今回の打ち止め。そこまでは20キロ少々なので距離は短い。今回のスケジュールはどこで終わるかがポイントで、何とか松山まで行きたかったのだが2日ほど足りなかった。しからば45番岩屋寺まで、とも考えたが名古屋への夜行バスが松山から出る以上、いずれにしても松山まで行けないことには中途半端な終わり方になってしまう。

結局44番を打ち終えて久万高原からJRバスで松山に出ることにした。

今日も天気が良く体調もいいのでもう少しがんばるべきかとも思ったが、調子が良いときに終わるのが一番と思い、昨日の続きの国道379号線を歩いていく。
道の風景は昨日とあまり変わらないが、朝は空気が澄んでいて車も少なくとても気持ちがいい。日が高くなるにつれて気温も上がって行き、やがて薬師堂に到着。

この先の落合トンネルを抜けると県道42号線に分かれ、ますます車の少ない道になっていく。四国の山奥の県道はおおむね細く車ではしんどいだろうなと思うが、ときどき素晴らしく良い道になったりして、前後が細いのに意味があるのだろうかと思いながら、車1台通らない道の、無意味に広い歩道を歩いていく。

やがて三嶋神社に到着。近くに遍路小屋があったので休憩。今日の行程は正統の鴇田(ひわた)峠遍路道を選んだが、地図によるともう一つ、農祖峠(のうそとう)遍路道もあり、そちらにも三島神社というのがある。何か関係があるのかなと思ったが、どちらの道も通ってみたいと思う。

三嶋神社近くの遍路小屋

ここから道は次第に上りとなっていく。上畦々(かみうねうね)という変わった地名の標識のところで42号を離れると上りはきつくなっていき、やがて舗装路の終点に「鴇田峠遍路道」と書かれた道標があり、遍路道となってここから急登である。

かみうねうね

 

鴇田峠への入り口

峠道も6日目となるとすっかり慣れてきて、身体はきついものの休まずに上っていく。息を切らせながらあの曲がり角まで、とか、あの木の所まで、などと目標を決めて歩いていると、やがて舗装された車道に出、そこが標高570mの下坂場峠だった。

下坂場峠

ここから久万高原町に入りだらだら坂を下っていく。日差しがきつくなってきてのどが渇くが、うっかりしていて手持ちのペットボトルの中には水がわずか。もう一つ大きな峠を越えることになるのだが、このままでは乾きに耐えられない、どこかに自販機は?と歩いていたが、途中の小さい集落には見あたらない。どこかの家で水を分けてもらうか、などと真剣に考えていたら1カ所だけ自販機を発見できたので、ようやくお茶を購入。

やがて標高790mの鴇田峠への上りに入っていく。790mと言えば標高としてはかなり高いのだが、登りはじめが500m位なので標高差は約300m、先日の柏坂よりは低い。とはいえしんどいことには変わりないので、途中の休憩所で大休止。あたりは物音一つせず、鳥の鳴き声が聞こえてくるばかり。ここまで来ると44番まではあと5キロ。早すぎるくらいなので昼食代わりのサラミなどをかじりながらくつろぐことにする。

やがて舗装路から遍路道に入っていき、先ほどの下坂場峠と同じような感じの道を上っていく。先ほどよりは距離も長く勾配も急なような気がするが、最後の峠なので休まずに上っていくと、12時頃に鴇田峠に到着。

峠には特に何もないが、ベンチがあるので荷物を下ろして休憩。やたら虫は多いが今日は全く人に会わない。静かすぎる峠をしみじみと味わう。

誰もいない鴇田峠

峠を越えると当然道は下っていく。下りは今までの峠に比べると歩きやすく、いつもしているように、途中にある仏像一つ一つに手を合わせながら木立の中を下っていく。

やがて下界がちらちら見えてきて、13時頃久万高原の町中に入る。ここで一旦寄り道をしてJRのバス乗り場に向かい、松山行きの時刻を確かめる。調べていた通り15:41発があるのを確認した後、久万の古い町並みを歩いて行き、やがて川を越えると44番大宝寺の山門がある。

ここから大宝寺までは1キロ以上あり、ゆっくりと上り坂をのぼっていく。駐車場を越えて脇の急な道を上がると今度は立派な山門があり、脇には巨大なわらじが2足つり下げられている。この山門は車道から下にある清滝寺のような作りで、歩きでないと通れない構造は小気味がよい。

坂を上っていくと思いかけずEさんに出会う。昨日泊まった宿は豆腐屋もやっていたので食事はどんなだろうと言っておられたが、夕食は豆腐ばかりだったそうで、今朝は朝食もとらずに早立ちしたそうな。Eさんは今日この辺りで泊まり、岩屋寺から松山まで打つ予定とのことでうらやましい。しばらく話をしたあと挨拶を交わしてお別れ。またお会いすることができるだろうか。

一人石段を登って境内へ。山中にあるので境内は狭いが、その狭い境内に続々と車がやってくる。車での参拝に何の文句もないが、やってくる客は若い人ばかりで、下にちゃんとした駐車場があるのだからこのくらいの距離は歩いて欲しいと思う。

とにかく今回最後の札所なので心して参拝し、今回最後の納経。時間も早いので隅のベンチでゆっくりと休憩、またしばらく味わうことができなくなる遍路の雰囲気を堪能する。

まだ時間があるので食事でも、と思ったが特に良い店もないので、町中にある於久万(おくま)大師に足を伸ばしてみる。札所と違ってここにはだれもおらず、こういうところの方がいいなと思いながら珍しくお賽銭をいれて拝む。

誰もいない於久万大師

後はバス停に戻るだけだと歩き出したら、例の自転車おばさんの夫婦にばったり出会う。もう会うこともないだろうと思っていたのでうれしさひとしおで、しばらく立ち話。ご夫婦はずっとテント泊だが最後に1泊だけ旅館に泊まるとのことで、風呂とビールが楽しみとうれしそうだ。
最後に「ではまた、いつかどこかで」と言葉を交わしてお別れ。旅の終わりの寂しさと重なって少し涙が出そうになった。今回は深く関わった遍路が多かった。

14:30JRバス久万高原駅に到着。お遍路はここで終了。きれいなトイレがあるのでここで俗世に戻る支度をし、時間があるので土産物屋で山菜おこわを買って昼食代わりに食べる。
昨日のおこわ稲荷も旨かったが、餅米を使った料理は好物である。

松山行きのバスは定刻に出発。三坂峠から松山方面の眺望はなかなかのものだった。
道は下りきると次第に町になり、やがて松山の市街地へと入る。このバスはJR松山駅行きだが今夜の夜行バスは伊予鉄道松山市駅からの出発なので、最寄りの南堀端で下車し歩いて市駅に向かう。

たっぷり時間があるので風呂に入ろうと思う。前回の高知と違って今回は松山、松山と言えば道後温泉。松山は学生時代に兄が住んでいたところで、何回か遊びに来たときに本館ではないいい温泉に連れて行ってもらっていたので、そこに向かうべく荷物をコインロッカーに入れ市電で道後温泉に向かう。

伊予鉄道坊っちゃん列車

終点の道後温泉駅で下車し、見覚えのある懐かしい商店街を抜け「椿の湯」へ。外も中も20年前の趣を残しているのがうれしく、360円也を払って中へ入る。温泉を堪能してから商店街をそぞろ歩きし、土産に名物のタルトと母恵夢(ぽえむ)を購入。

せっかくだからと道後温泉本館をのぞいていくが、こちらは観光客でとんでもない行列になっていて、これではせっかく風呂に入れても落ち着いて湯に浸かれないのでは、と思ってしまう。ふたたび市電で市駅に戻り、駅近くの居酒屋に入って無事に終わった遍路旅にひとり乾杯。定刻出発の名古屋行きのバスでは熟睡することができた。

今回もトータルで6日間、約170キロの旅は天候にも恵まれ大きなトラブルもなく終了した。44番まで回れたことで、札所は数の上では半分、距離では3分の2まで来たことになる。