OSA日記

旅と食と健康とメンタルと

四国遍路 7_6

5月5日

6日目

毎回区切り打ちは1週間前後の日程となるが、だいたいどこかでその回のハイライトが来るものだ。今回のハイライトといえば間違いなく今日で、歩き遍路の中でも有名な遍路ころがし(難関)の横峰寺がある。
ほぼ標高750mまで、単純な高低差だけで言えばナンバーワンである。

朝食は6時、出発は6時半と、余裕を持ったスケジュールだが、朝食のとき宿の女将さんが、接待で次の宿まで荷物を運んでくれるという。ほとんどの人が喜んでその申し出を受けているし、空荷の時の楽さは重々わかっているのだが、何となく変なこだわりがあり、接待はお断りした。

丹原の町を出てしばらくは平坦な道を歩き、途中のコンビニで食料などを補給していく。妙雲寺を過ぎると車道ながら次第に高度を上げていく。民家がなくなると山の中に入っていき、川のせせらぎと鳥の声だけが聞こえるようになる。

やがて車道の終点に到着。ここには休憩所があり、何度かお会いした野宿遍路の方がいたので少しお話。この人は昨夜ここに泊まり、すでに横峰寺には上ったとのこと。ただ、ここのトイレに忘れ物をして大急ぎで取りに戻ってきたということで、重い荷物を担いでご苦労なことだ。崖の所にこんこんと水が湧いており、この水が大変おいしいと言い残してこの人は立ち去った。

しばらく休んでいると3台ほど車がやってきた。どうするのかと思ったら、わりと軽装の人たちが遍路道を上っていく。中には犬を連れた人もいて地元の人っぽいが、軽い登山のつもりでもあるのだろうか。少し距離を取っておいしい水を飲んだ後、こちらも出発。時刻は9時。

休憩所の標高はすでに300mくらいで、あと450mくらい登ることになるが、出来るだけ高度計は見ないようにしながら上っていく。しんどいながらも身体的には快調で、やや速いペースで歩いていると、たちまち先だっての人たちに追いつき追い越す。追い越した以上追いつかれたくないので、休憩もせずに上っていくが、さすがに随一の難関、先が全く見えない。

延々と続く遍路ころがし

今回は毎日気温が若干低いめであまり汗をかかなかったのだが、さすがにここは別格で大汗をかきながら登る。大汗をかくとバンダナでは吸収しきれず、しまいには笠の紐の先まで湿ってくるから閉口する。だんだん息が上がってきて、休憩こそとらないが何度か立ち止まって息を整えなければならない。

それでも1丁ごとに石仏があり、順調に数は減っていく。とうとう2丁になりやがて山門が見えてきた。汗だくになりながら10時に60番横峰寺到着。息を整えはしたが、結局休憩なしで登ってきたので予定よりかなり早い。我ながらよくがんばった。

横峰寺は山のてっぺんにあるだけに最近まで車道はなかったそうで、唯一車での参拝を拒絶していた札所らしいが、とうとう有料道路が出来たらしい。それでも駐車場からは1キロ以上登る必要があり、45番岩屋寺とともに一般客も息を切らせながら上っていて何となく小気味よい。当たり前だが山門は遍路道側にあり、人はあまりこちらまでは来ないようで静かなものである。狭い境内で参拝し、納経。しばらく休憩。

さて、横峰寺にも奥の院があり、「星ガ森」という。霊峰石鎚山の遙拝所として江戸時代に作られた鉄の鳥居があるとのことで、是非とも行ってみたいと思っていた。横峰寺からさらに500m上ったところにあるので、ここまでの難関で疲労困憊していたらやめようと思っていたが、体調は快調なので行くことにした。

山門まで引き返し、上り口を左にと看板が出ている。建物の陰にザックをデポして上っていく。疲労しているときの500mというのはとてつもなくしんどいが、今日は快調だし天気もいいので、だらだら坂のツヅラ折れもそんなに苦にならない。

やがて大師像が見えてきて星ガ森に到着、その先に鉄鳥居があったが、その小ささに驚いた。鳥居というので大きなものを想像していたが、実際は私の肩までもない。が、鉄で出来ているのだから当然と言えば当然だし、すぐにその先に大きな存在感を示す石鎚山に目を奪われてしまった。

標高でいくと2000mもない山なのだが、山高きがゆえに貴からずという。素晴らしい山容が鳥居越しに見えて、長いことその景色を堪能していた。いや本当に来て良かった。鉄の鳥居も江戸時代に出来ただけあって錆だらけだが、とても味がある。降りるのがもったいなくて、しばらく佇んでいた。

星ケ森の鉄鳥居と霊峰石槌山

こんなにいいところにどうして誰も来ないのだろうと思う反面、人がいないおかげで心ゆくまで静寂を楽しんだ後、来た道を引き返す。車客がほとんどなのだが、その車客も1キロ以上の山道を上ってきて、それ以上上る気になれないのだろう。つくづくもったいない。

もう一度山門をくぐり、小休止してから出立。今度は同じ標高差の下りがあるのでまだまだ気が抜けない。山門を背に人がたくさん通る駐車場方面へと下っていく。と、ほぼ同時に出発したご夫婦がいて、何となく言葉を交わす。60番へは61番から逆にやってくる人も多いようだが、このご夫婦もそうで、すでにいくつか打ってきたらしい。星ガ森へ行ったか訪ねると、その存在すら知らない様子。その素晴らしさをデジカメの写真を見せながら説明すると、是非行ってみたいと言って引き返していった。人がいなかったのはしんどいというのもあるが、知らなかったからということもあるのだ。

遍路道はすぐに車道から分かれ、下っていく。上った分下るので、上りのあの調子だと膝にくるなと思っていたら、下りは最初のうちだけでその後かなり長い間平坦な道が続く。場合によっては上り返したりして、一向に高度が下がらない。改めて地図を見ると、麓までは登りの2倍以上の距離があり、そういえば上りより下りのほうがかなりしんどいと何かの情報であったような気がする。

時間ばかり過ぎていき、今日はこの後4つも打たないといけないので少々急ぎ足で歩いていく。さらによく地図を見ると、この先にわずかな距離で一気に150m以上下るところがあり、はたして極端なつづら折れが突然現れたりする。ザレ場のつづら折れをさらにジグを切って降りていくが、ここで一気に高度を下げ、ようよう車道に出る。まもなく61番の奥の院で、簡単に拝んだ後は穏やかな道に戻る。

辛い下りのつづら折れ

難所を終えた安堵感に包まれながらゆっくり進んでいき、やがて61番香園寺に到着。この寺は鉄筋の巨大な建物で、本堂、大師堂が一つになった近代的なものだった。とても寺の本堂に見えず少し違和感を覚える。

寺とは思えない61番香園寺

別に鄙びた建物が良いというわけではないが、あまりにも寺院とはかけ離れた雰囲気の建物で、2階に上がった中も映画館か大ホールのような椅子がずらりと並んでいる。その真ん中に安置された金ピカの大日如来が成金趣味のようだ。

大師堂はどこだと探したら、隅に申し訳程度に厨子が置いてある。何となく気持ちが萎えてしまったが、読経と納め札だけは手早く済ませ外に出る。ちなみにこんな立派な建物なのにトイレは遠方の駐車場にあるそうで、その点だけでも人に優しくない。

少々拍子抜けしたまま外へ。ここからまた短距離にいくつかの札所があり、交通量の多い国道をしばらく歩くとすぐに62番宝寿寺に到着。今度は先ほどとは対照的に、今までにないくらい小さくて鄙びた札所である。どれくらい小さいかというと、線香立てが一つしかなく境内にベンチもないし山門もない。駐車場もほとんどないので団体はどうするのだろうかと思いながら納経所に行くと、納経帳が山のように積んである。気配はすれども姿がない団体だが、おおかた近所にバスが止めてあるのだろう。近づいていくと私の納経を先に済ませてくれた。

一転してこぢんまりした62番宝寿寺

さらに国道を進んでいく。この辺りは歩道もなく歩きにくいが、わずか1.7キロで63番吉祥寺に到着。
ここには山門もベンチも有り、コンビニで買ったおにぎりを食べることが出来た。特筆すべきものはないが、何か庶民的な寺で落ち着く。15:30出発。札所の納経はどこも17時までなので、何となく時間に追われている感じがする。

次の札所までは4キロ程度なのでゆっくり歩いても問題ないが、それでも日が傾いてくると落ち着かない。道は国道を離れ旧道の讃岐街道へと入る。横峰の下りでかなり無理をしたような気もするが、ヒザをはじめ脚はとても快調で申し分ない。ただ、さすがにスタミナが切れてきたような感じで、息が上がりやすくなっている。

16時を過ぎて64番前神寺に到着。今回はここが最後の札所となる。疲れてしまったので小さい寺を希望していたが、こんな時に限ってかなり広い境内で、山門をくぐってから本堂までが遠い。本堂と大師堂にたどり着き読経、そして納経。この時間になると境内は静かなもので、ほとんど人がいない。今回も無事に全ての札所を打つことが出来たことに感謝しながら、ベンチでしみじみと休憩。今日の宿までここからすぐだ。

わずか500mくらいで本日の宿の湯之谷温泉旅館部に到着。今回の遍路では3度目の温泉となるが、わざわざ「旅館部」というのは日帰り温泉もやっているからで、入り口は二つあり、隣にもう一つ「浴場部」がある。
歴史のある温泉のようで、建物も相当年代物だ。今回は安い本館に泊まるが、本館の方が離れにあって、長い廊下の先の建物の部屋だった。

つげ義春の世界のようなレトロな通路を通って温泉へ向かう。日帰り客が多く浴槽は賑わっていたが、やはり温泉は気持ちがいい。食事も結構豪華で、多少建物が古くても宿はこうでなくてはいけない。

レトロな温泉宿

今日は最後の宿泊なのでビールを注文、毎度の台詞だが渇いた身体にビールが染みこんでいくようだ。遍路客は私ともう一人の年輩のおじさんだけで、アルコールが入ったせいもあり話が盛り上がる。この方は通し打ちで、4月頭から歩いているとのこと。ちょっとうらやましい。

本日の歩行は50,000歩、27.0キロ。無事に難関を突破してやれやれである。