１０月７日
３日目、今日は今回のハイライト、四国遍路でも最初の難関の焼山寺越である。このような難関のことを「遍路ころがし」といって、他にもいくつかあるが、焼山寺越えがとりわけきついのは何度もアップダウンがあるからだろうと思う。 とにかく早出が一番なので、６:３０には宿を出発する。
昨日参った藤井寺の境内から焼山寺みちが始まる。初手から急な階段の連続で、起きぬけの慣れない体は早くも青息吐息だ。坂道を登るのはある程度は山登りで慣れていたので、きついながらも休まずに登っていく。
３０分程度で展望のきく場所に着き、上着を脱いで休憩し息を整える。地元のおじさんがいたので少し話をしたが、並足で６時間のコースを２時間半で行く猛者もいるらしい。 はたして出発してすぐに後からチリンチリンという鈴の音が急速に迫ってきたと思ったら、作務衣姿の人にものすごい勢いで抜かれた。修行者っぽいがこれがその猛者かもしれない。
８時前に長戸庵到着。焼山寺までは間にいくつかの庵があり、ちょうどいい距離なので少し休憩。正にちょうどいい距離にあるので長戸庵と言うらしい。先発した人たちの中に昨日同宿だった人がいたので話をする。麓のＦ旅館に泊まれなかったので、５時に遠くの宿を出たらしい。
学生らしい若い人もいて大荷物だったので話しかけてみると、やはり野宿旅だそうだ。この辺にテント張れそうなところはないでしょうか、というので、ちょうど持っていた本を開いて見せて一緒に検討する。若いというのはいいものだ。
ここからは少し平坦な道になるので少し歩調を速めて時間を稼ぐ。それにしても今日はいい天気で本当に良かった。ただ、昼から下り坂とのことで、少しでも早いに越したことはないと、先を急いでいると何人かの遍路を追い越した。
急なつづら折れの道を下りきると柳水庵到着、９:００である。ここは弘法大師が水を欲して柳の木で地面を突くと水が湧き出したとのことで、今でもおいしい水が湧き出す所だ。柳水という言葉はこの先々もよく聞いたので、同じような伝承があちこちにあるらしい。休憩中の方に接待といってバナナをいただく。
柳水庵を出発してしばらくすると急登の道が出現。いよいよ本格的になってきた。汗まみれになりながら登り続けると本日の最高地点の浄蓮庵に到着。見事な一本杉があるので一本杉庵とも言う。
息を整えていると、これまたすごい勢いで走って通過していく３人の女性がいたので驚いた。後で知ったが、これはトレイルランニングというスポーツらしい。
ここからは急な下り。体力はともかく膝に負担がかかり、ある意味登りよりきつい。標高７５０ｍから一気に４００ｍまで下り、沢を渡ると今度は７００ｍまでの登りだ。なんとこの途中で朝方ぶち抜かれたらしい作務衣姿の人とすれ違った。早くも焼山寺まで往復してきたらしい。
さすがに最後の急登はこたえる。弘法大師の身代わりという金剛杖にすがり、荒い息とともに「南無大師遍照金剛」と心の中で唱えながら必死で登る。雨なんか降ったらどうなるのだろうと思いながら、今日の晴天に感謝する。途中でどうしようもなく疲労困憊したので道を逸れ、石の上に座って休憩。同じようにヘタっているおじさんがいたので、お互いに荒い息で「きついですなぁ」と話をする。
その後も頑張って登っていき、やっとの思いで参道に入り、１２番焼山寺についたのは１２時前。コースタイムは５時間半で、健脚と並足の間くらいの時間だった。
納経を済ませると、昼飯代わりに昨日買ったおにぎりをほおばり始めたが、天気予報どおり空が曇ってきた。 焼山寺には着いたのでまあ雨でもいいかと思ったのだが、今日の宿は近いところが満室だったので、そこからさらに１０キロ近くあるので早い目に下山しようと思う。
難関の焼山寺に着いてほっとしたのも束の間、よく考えたらそこから標高１４０ｍまで下らなければならない。はっきり言って今日の行程で一番きつい道だった。とにかく延々と下っていく。
途中で河野衞門三郎の像があり、ここでの逸話があるのだがこれはまた後の話。麓には遍路向け休憩所があったので、一服して残りのおにぎりをほおばり、本日の宿のＳ旅館を目指す。ここからはようやく平坦になった川沿いの舗装路だ。
Ｓ旅館には１４:３０に到着。少々早かったが結局雨に降られずにすんだので助かった。しばらくして用意できた風呂で一汗流し、洗濯機を借りてたまっていた洗濯をする。
この宿ではＢ夫妻と同宿で再会を喜ぶ。他にも東京や大阪からの男性と、Ｆ旅館で同宿の女性（Ｃさん）と広島からの車遍路夫妻と同宿。相変わらず夕食時は盛り上がる。 Ｂ夫妻は７度目の歩き遍路だとのことで、「もう葬式代もありません」といって笑っていたが、７回中４回まで焼山寺の難所で雨に降られたそうで、雨だとどんな風になるか聞いたら一言「滝」だと。晴れていて本当によかった。
今日は疲れたけど、難所を問題なくクリアできたので大満足である。早々に寝ることにする。
本日の総歩行距離は２１キロ。距離はともかく標高差は大きかった。
